サバンナ八木 かやぶき君 234

サバンナ八木 かやぶき君 234

新しいお城、素晴らしい。
前の城主がこだわってつくったのだろう。
調理場も充実していた。
土の中に自然の冷蔵庫があった。
夏にかき氷を食べることができた。
夏に、かき氷を黒蜜をかけて食べる。
これは、大名か大商人ぐらいしか、できることではなかった。
あと腕のある調理人がいた。
街で有名な料理人をスカウトしてきたのである。
その調理人は酢の使い方が抜群に良かった。

公平 

かやぶき君が尾行していたホシに動きがあった。
喫茶店にいたホシに電話がかってきた。
会話の内容は聞き取れなかったが慌てた様子で
店から飛び出した。

刑事かやぶき君もそれに付いて出た。
ホシは流しのタクシーを器用に捕まえ乗りこんだ。

「ついに来た」
走りながらかやぶき君は心の中で思った。

そしてホシと同じように
道路に少し飛び出し手を挙げた。

タイミング良く止まったタクシー。
開いた扉に勢いよく飛び乗った。

「どちらまで」

かやぶき君の顔は少しニヤケていたかもしれない。
ただ目線はホシの乗った車から離していない。

この時のために
このセリフを言いたいがために刑事になったといえば
大袈裟かもしれないが
万感の思いを込めてかやぶき君は運転手に言い放った。

「前の車を追ってくれ!」

かやぶき君は
普段そんな偉そうなものの言い方をしない。

いつも通り
この国道を流していたケイスケ。
タクシーに乗って20年目になる。
転職も考えた時期もあったが
運転自体が好きというよりも
このタクシーいや、クラウンの臭いが好きだった。

平凡を絵にかいたような運転手人生。
それはそれでいいと思っていた。

「おや?」

人間?いや着ぐるみ?
あっ!?怪獣だ!
しかも手を挙げてタクシーに乗ろうとしている。
芸能人を乗せた事もある。
幽霊も乗せたことがある。
でもそれとは少し違うドキドキする胸の高鳴りを感じた。
何かが動き出す感じがしたんだ。

ケイスケは車を寄せて
怪獣の横で止まった。
怪獣の目線は前を向いている。
そのまま乗りこんできた怪獣に尋ねた。
「どちらまで」

この怪獣が答える1秒前
「あっ!ついにきたか」
と思った。
まさかこの怪獣から聞くことになろうとは。

「前の車を追ってくれ!」

ミラー越しに
警察手帳を開け
ニタニタして少し照れた様子の怪獣がいた。