サバンナ八木 かやぶき君 93

サバンナ八木 かやぶき君 93

長髪の常連さんがクラブイベントをすることになった。
DJブースとかないのだが、長髪の常連さんは大丈夫という。
ミキサーの横に置けますねという。
長髪の常連さんは、ドリンクを任せていいですかと提案してきた。
当日はチケット1000円で2ドリンクつくシステムにしようと提案してきた。
チケットの売り上げ、ドリンクの売り上げをドリンクの仕入れを引いて、折半しようというのだ。
初めての経験なので、提案されたまま、受け入れることにした。
長髪の常連さんが指定したシャンパンやテキーラを仕入れることにした。

公平 

人もまばらな昼過ぎの電車内。
野球帽を目深にかぶり
サングラスとマスクをしている男をみかけたかやぶき君。
あれは、芸能人か悪い奴のどちらかだと決めつけて
自分が降りる吉野口の駅まで車内でマークしていた。

かやぶき君もこの身体なので
むこうもチラチラこっちを見ている。

その同じ車両に乗っていた朝子は
初めてみる怪獣をまじまじと見ていた。
頭にかやぶき屋根を乗せた怪獣が
ゆるきゃらのような着ぐるみでないことは
すぐにわかった。
怪獣はどこか少し離れたところをじっと見ている。
どうやらサングラスをかけ野球帽をかぶりマスクをしている
怪しげな男をみているようだ。

朝子はピンときた。
これは何かあるかもしれないと。
一瞬で心を奪われた。

朝子と昔同じ高校に通い
話したことはなかったが、前から朝子の事を少し気になっていた義純は
たまたま乗った電車で朝子をみかけ少し喜んだ。
朝子は特別美人ではなかったが
かわいいタイプの女の子だなぁと思う。

むこうは自分の事なんてたぶん知らない。
その方が気が楽だった。
朝子は何かを見ている。
視線の先には怪獣らしき男がいた。
他の人間より頭一つ大きい。

義純は気が付いた。
朝子はあの怪獣の事が好きなんだと。
あの不格好な大柄の怪獣が朝子の理想なんだと。
それに引き換え自分はなんだと自己嫌悪になった。
こそこそと少し離れた所から
見ているだけで満足して
声すらかけることができない自分。
入れ物だけでなく色んなものが小さく小さく思えた。